犬の中耳炎は、外耳炎と似ているため、見過ごされることが多い炎症です。
それは、私たち人間は、鼻や咽頭から細菌やウィルスなどが、耳管という中耳につながる管を介して、中耳へと感染して中耳炎を発症することが多く、激しい耳の痛みや閉塞感といった中耳炎独特の症状がみられるのに比べ、犬ではほとんどの場合、外耳炎が進行して中耳炎になるので、程度の差はありますが、症状としてはほとんど外耳炎と変わらないからです。
また、捻転斜頸(片方の耳の位置が、もう片方より低くなって首を傾けた状態)や顔面神経麻痺、ホルネル症候群(第3眼瞼の突出と片眼の縮瞳など)といった症状を呈することもあります。
こうなると、内耳炎と混同されることもしばしばです。
近年では、オトスコープという内視鏡で鼓膜を明瞭に観察でき、オトスコープによる鼓膜の所見だけで中耳炎と診断できることが多くなりました。
また、CTやMRIは、中耳炎の確定診断に有力であるだけでなく、中耳や周辺組織の情報も伝えてくれるので、とても優れた診断方法です。
必要により鼓膜切開をして中耳から吸引した材料で、中耳炎の病態の一部を把握することができます。さらに、鼓膜切開の部位を介して中耳を洗浄するなど、治療も可能です。
しかしながら、一般に犬の耳疾患は、かなり慢性経過を経て、外耳道や中耳の組織に回復不可能なほどダメージが生じてから、耳科を得意とする獣医師が診るということが多いため、外科手術を必要とすることも少なくありません。
その手術というのは、外耳道全部を摘出すること、そして中耳の外耳道側の骨を切除すること、さらに中耳の鼓室胞と呼ばれる骨の一部を切開し、洗浄したり、汚れたところを取り除くといったかなり大掛かりな手術です。
ただ、このオトスコープの活用という新しい治療法で、摘出手術をしなくても済むケースが少しずつ年々増えてきています。
内耳の疾患について
人間の場合と同様に、先天的難聴があります。犬では、その多くが遺伝性であると考えられています。
また、比較的まれなケースですが、子犬の前庭機能障害による前庭性運動失調(運動に協調性が失われている)がみられ、難聴と関連している可能性があります。
既知の治療法はありませんが、ほとんどの場合、ペットとして受け入れられる存在です。
細菌性、ウィルス性、そして真菌性、さらには免疫性疾患も平衡感覚や聴力の喪失の原因となります。
MRIなどの画像診断は、中耳および内耳の関与を評価するだけでなく、脳幹への影響を除外するためにも必要です。
細菌性髄膜脳炎の発症を避けるために、全耳道切除術、あるいは腹側鼓室胞切開術が積極的に適応されますが、オトスコープの活用法次第では、そうした手術を回避できるケースも増えています。
犬の内耳炎の症状
- 頭を傾ける
- 眼が揺れて見える
- 旋回する
- 歩き方がおかしくなる
- 平衡感覚の麻痺
犬や猫では、外耳炎から中耳炎、そしてその奥にある内耳が侵されて内耳炎が発症します。
ですから、内耳炎・中耳炎になってしまう前に外耳炎を完治させることが大切です。