耳の病気についてEar Infections

Treatment 犬猫の
耳の病気について

耳は音を聞くだけではなく平衡感覚をとる大事な器官です。
また、皮膚の延長としてアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの症状が耳にも出現するため、耳の病気の原因はとても複雑です。

耳の病気は炎症の起きている場所により、外耳炎(耳介と耳道の炎症)と中耳炎(鼓膜の奥=中耳・鼓室の炎症)、内耳炎とに分かれます。
炎症の原因として、感染(細菌、カビ)、アレルギーや腫瘍などがあります。耳の病気になった時は耳の炎症の治療だけでなく、上記の基礎疾患を考えなければなりません。

耳の病気の中でも中耳炎は大変治りにくい病気です。特に中耳炎になったことに飼い主が気付かないまま病気が慢性化すると、完治は難しくなります。
また、外耳炎や中耳炎をこじらせて耳道(耳の穴)が塞がってしまうと耳の洗浄ができなくなります。
すると行き場を無くした膿や脂が耳の奥に入り込み、全身状態が悪化します。
このような終末的な耳の状態の処置として全耳道切除術―耳の内側を全部取ってしまう手術があります。

Dog breeds 耳の病気になりやすい犬種

  • トイプードル

    24cm~28cmまで小型化されたプードルで、美的な要素も加味されていきながら今日の愛玩犬となりました。
  • プードル

    古くからヨーロッパで広くみられ、特にフランスでの人気が高く、「フレンチ・プードル」と呼称されることもあります。
  • フレンチブルドッグ

    がっしりとした体つきの、極めて鼻が短い小型犬です。特徴的なのはコウモリが羽を広げたような耳で、バット・イアと呼ばれます。
  • アメリカン・コッカー・スパニエル

    もともとイギリスから輸入されたスペインの猟犬であるスパニエルにはじまり、アメリカ合衆国内で発展しました。
  • コッカー・スパニエル

    有名な愛玩犬のアメリカン・コッカー・スパニエルの祖先犬にあたり、姿かたちもよく似ていますが、かなり頭がとがっていて口吻も長いです。
  • ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア

    スコットランド原産の一犬種。白一色の被毛を持つ小型のテリアで、ウェスティーという愛称で呼ばれています。

外耳炎についてOtitis Externa

外耳炎は、耳の穴に急性または慢性の炎症が起こっている疾患のことをいいます。
その炎症は、耳の穴の入口から鼓膜までおよぶこともあり、放っておくと鼓膜の奥にある中耳、内耳に波及することがあります。

症状は、外耳炎を引き起こしている原因と炎症の程度によって異なりますが、耳にかゆみや痛みが生じます。痛みのため、犬自身が耳を触らせまいと、攻撃的になることもあります。
そのほかにも、首を振ったり足で耳の後ろの部分を掻いたり、耳を下にして頭を傾けるようなしぐさをします。
耳垢が多くなり、耳から悪臭を放つようになって、ようやく気が付かれることがあります。

外耳炎を起こす原因

外耳炎の原因として、最も多いのが犬アトピー性皮膚炎あるいは食物アレルギーです。
実に犬アトピー性皮膚炎のわんちゃんの83%は外耳炎を併発しているという報告があり、犬アトピー性皮膚炎のわんちゃんの35%は外耳炎の症状のみというデータもあります。
また、食物アレルギーのわんちゃんの80%は外耳炎を併発しているとも言われています。
他にも、草の実などの異物によるもの、耳疥癬(耳ダニ)の感染によるもの、綿棒などによる誤ったケアによるもの、耳垢腺という分泌腺の疾患によるもの、内分泌と呼ばれる体質によるもの、腫瘍によるもの、免疫の問題によるものなど多くの原因が考えられます。

もともと、耳の中には『マイグレーション』と言って、耳の中を自浄化する自然治癒力があるのですが、上記のような外耳炎を引き起こす原因によって、そうした機能が働かなくなると、耳の中の環境が悪化し、外耳炎が発症し、その結果細菌や真菌が増殖します。
外耳炎は、こうして様々な原因がありますから、これまでの経緯を詳しくお聴きしていくことが必要です。
また、オトスコープ(内視鏡)で耳の中を丁寧に診ることがおすすめです。

犬の外耳炎の症状

  • 耳をかゆがる
  • 耳ダレがみられる
  • 黒い耳垢がみられる
  • 耳が臭い
  • 頭をよく振る
  • 沈鬱で無表情
外耳炎は、耳の中(外耳道)や耳のまわりの炎症をいいます。
実は、犬ではあらゆる病気の中で最も多い疾患の一つです。
原因は様々で、しかも複数の因子が関係していることが多く、そのため治りきらずに慢性になりやすいのです。

異物による外耳炎

外耳道に異物が入ると、炎症などの様々な病気を引き起こしてしまうことがあります。
症状は、犬がくびを振ったり、違和感のある側の耳を下に傾けるしぐさをを頻繁にします。

他に、外耳道が赤く腫れ上がる、鼓膜を破ってしまうなどが見られます。こうしたことで、中耳炎や内耳炎など、より深刻な病気を発症してしまうこともあります。
原因は、散歩などに行った際に草むらに入り、植物の種や虫が耳に入り込むことによって引き起こされることが知られています。しかしながら、実は体表の被毛が耳の穴に入り、鼓膜を刺激したり、刺さって起こるケースが最も多いと思われます。
対策としては、オトスコープと呼ばれる内視鏡での検査をおすすめしています。

異物は、それが何であれ、患者であるわんちゃんに全身麻酔をかけなければ、安全に、そして確実に取り除くことができません。
また、異物は既に鼓膜や中耳、さらには内耳まで炎症をもたらしているかもしれません。そのため、やはりオトスコープによる正確な診断と治療が勧められます。

柴犬の耳毛塞栓

犬の中耳炎Otitis Media

犬の中耳炎は、外耳炎と似ているため、見過ごされることが多い炎症です。
それは、私たち人間は、鼻や咽頭から細菌やウィルスなどが、耳管という中耳につながる管を介して、中耳へと感染して中耳炎を発症することが多く、激しい耳の痛みや閉塞感といった中耳炎独特の症状がみられるのに比べ、犬ではほとんどの場合、外耳炎が進行して中耳炎になるので、程度の差はありますが、症状としてはほとんど外耳炎と変わらないからです。

また、捻転斜頸(片方の耳の位置が、もう片方より低くなって首を傾けた状態)や顔面神経麻痺、ホルネル症候群(第3眼瞼の突出と片眼の縮瞳など)といった症状を呈することもあります。
こうなると、内耳炎と混同されることもしばしばです。

近年では、オトスコープという内視鏡で鼓膜を明瞭に観察でき、オトスコープによる鼓膜の所見だけで中耳炎と診断できることが多くなりました。
また、CTやMRIは、中耳炎の確定診断に有力であるだけでなく、中耳や周辺組織の情報も伝えてくれるので、とても優れた診断方法です。
必要により鼓膜切開をして中耳から吸引した材料で、中耳炎の病態の一部を把握することができます。さらに、鼓膜切開の部位を介して中耳を洗浄するなど、治療も可能です。

しかしながら、一般に犬の耳疾患は、かなり慢性経過を経て、外耳道や中耳の組織に回復不可能なほどダメージが生じてから、耳科を得意とする獣医師が診るということが多いため、外科手術を必要とすることも少なくありません。
その手術というのは、外耳道全部を摘出すること、そして中耳の外耳道側の骨を切除すること、さらに中耳の鼓室胞と呼ばれる骨の一部を切開し、洗浄したり、汚れたところを取り除くといったかなり大掛かりな手術です。

ただ、このオトスコープの活用という新しい治療法で、摘出手術をしなくても済むケースが少しずつ年々増えてきています。

犬の中耳炎の症状

  • 耳をかゆがる
  • 耳ダレがみられる
  • 黒い耳垢がみられる
  • 耳が臭い
  • 頭をよく振る
  • 沈鬱で無表情
  • 耳を触られるのを嫌がる
  • 頭を傾ける
  • 目が揺れるように動く
  • 唇が垂れる

犬や猫では、ほとんどの場合、外耳道から波及して鼓膜の奥にある中耳まで炎症が起こり、中耳炎となります。
例外的にキャバリアと一部の犬種では、鼻の奥から耳管と呼ばれる管を介して中耳炎になります。
中耳炎の症状は、ほとんど外耳炎と同じです。それだけに中耳炎になっていても気付いてもらえないことがよくあります。
悪化した場合、頭を傾けたり、目が揺れる、顔面神経の麻痺などが見られます。

内耳の疾患について

人間の場合と同様に、先天的難聴があります。犬では、その多くが遺伝性であると考えられています。
また、比較的まれなケースですが、子犬の前庭機能障害による前庭性運動失調(運動に協調性が失われている)がみられ、難聴と関連している可能性があります。

既知の治療法はありませんが、ほとんどの場合、ペットとして受け入れられる存在です。
細菌性、ウィルス性、そして真菌性、さらには免疫性疾患も平衡感覚や聴力の喪失の原因となります。

MRIなどの画像診断は、中耳および内耳の関与を評価するだけでなく、脳幹への影響を除外するためにも必要です。
細菌性髄膜脳炎の発症を避けるために、全耳道切除術、あるいは腹側鼓室胞切開術が積極的に適応されますが、オトスコープの活用法次第では、そうした手術を回避できるケースも増えています。

犬の内耳炎の症状

  • 頭を傾ける
  • 眼が揺れて見える
  • 旋回する
  • 歩き方がおかしくなる
  • 平衡感覚の麻痺
犬や猫では、外耳炎から中耳炎、そしてその奥にある内耳が侵されて内耳炎が発症します。
ですから、内耳炎・中耳炎になってしまう前に外耳炎を完治させることが大切です。

犬の耳疥癬(耳ダニ感染症)Ear Mange

耳ダニ感染症は、ミミヒゼンダニが耳道に感染して起こります。
このダニは、犬、猫、フェレット、そしてキツネ、タヌキなどの野生動物、場合によってはヒトも含め、直接接触によって感染します。
耳道内の表皮の剥がれたものを摂食しますが、患者には過敏に反応して、激しい痒みをもたらすことがあります。

耳道には、特有のコーヒーかすに似た耳垢がみられます。また、細菌性もしくは真菌性外耳炎、時には耳血腫の引き金になります。
診断は、耳道内の耳垢の一部を採取し鉱物油の中で顕微鏡、もしくはオトスコープという内視鏡を用いて動いているダニや虫卵を見つけることで、確定します。

治療には、様々な殺ダニ剤が用いられますが、なかでも滴下タイプの10%イミダクロプリド+1%モキシデクチンあるいはセラメクチンを、30日ごとに2回投与する方法は、対象が猫ですが効果が確認されています。

犬の耳血腫Ear Hematoma

耳介と呼ばれる、本来は薄い軟骨で支えられている部分(犬種によって、立っていたり、垂れていたりします)に、血液が溜まった状態を「耳血腫」と言います。

耳血腫は、その特徴的外観と波動感から、容易に診断ができます。 耳血腫は、発症する原因がまだよくわかっていません。物理的や痒みによる刺激、また免疫学的背景も考えられています。

治療法も外科的方法、特に耳介の表側と裏側を縫いわせる「マットレス縫合」という方法、排液のためにしばらくチューブを入れたままにする方法、またインターフェロンやステロイドを注入する内科的方法が、代表的治療法になります。

いずれにせよ、早期に治療しないと、耳介の軟骨が萎縮して、くしゃくしゃな耳介になることが多いので、注意が必要です。
耳介が腫れることによって、外耳道はさらに狭くなり、外耳炎がひどくなりやすいので、外耳炎対策も併せて行います。

かかりやすい犬種

  • ビーグル
  • ラブラドール・レトリーバー
  • ゴールデン・レトリーバー
  • バセット・ハウンド

犬の耳の腫瘍についてEar Tumors

残念ながら、犬の耳には腫瘤という塊(かたまり)がしばしば見られます。

耳以外のところに見られる一般的な腫瘤と同じく、一見すると腫瘍であっても、腫瘍性でないタイプも少なくありません。
例えば、慢性の外耳炎で、耳垢腺という分泌腺が過剰に大きくなっていたり、痒みによる引っ掻きの刺激で結節状になっていたり、綿棒による誤ったケアで腫れていることすらあります。

また、白っぽい塊として、外耳道の奥の方に認められる「真珠種」も、まれですが認められます。
さらに、外耳道の周り(軟部組織という)が増殖していることもあります。

こうした腫瘤は、出来るだけオトスコープによって精査されるべきですし、「細胞学的検査」や必要によって「病理組織学的検査」、さらにはCTやMRIで正しく診断されるべきでしょう。
その結果、耳垢腺癌、扁平上皮癌、皮膚リンパ腫などといった悪性腫瘍であれば、その発生部位や周辺組織への影響を確認後、治療法を選択します。

耳垢塞栓と炎症性ポリープ(これは猫の耳です)